THE NEW YEARS' POST

昨年はソーシャルな嵐がふきあれた年でした。
ある特定のジャンルではなく、すべての経済の領域で
多くの価値がどんどん変わっていきました。
単なる「つながる」を越えて、「共感する」の方向に変わってきました。
そんな資本主義経済の緩やかで大胆な変化。
それは田坂広志さんがいうボランタリー経済ともいうべき
新しい社会の姿の到来を予感させるものでした。
果たして世界は本当にそう変わっていくのか?
よりよい方向へ世界は向かっているのか?
でもこれはいえるかもしれません。
世界の変化は、多くの密やかな個人的な変化で
つくられているかもしれないのです。



UNPLUG LLC.ができることはデザインです。
デザインによってこれらの社会変化に対応し、
本当の意味での新しい社会価値に
関わっていければと考えています。
本年もなにとぞよろしくお願いします。




※私事ですが春先に郊外に引越をします。
そこからはじまる新しいワークスタイルを
構想しています。

救われない巨大な喪失感

1995年のある夏の日、僕はバハマ沖で約10日間、20名ほどの仲間とともに
洋上生活をしながらひたすらイルカを待ちつづけ、現れたら一緒に泳ぐという
ドルフィンスイムツアーに参加していました。
当時のハード過ぎる仕事から逃げだすように、
地球上で一番非日常的なドリームタイムを過ごすために、
単なるレジャーを越えて原始的な地球との接点を求めるように、
そして人間からも逃れるように日本から遠く離れた洋上のフェリーの上で
ウルトラターコイズブルーな海を見つめながら
来る日も来る日もただイルカを待ち続けるという贅沢だけど
ある意味あっちの世界へいっちゃったような時間を過ごしていました。
そこにいるタイセイヨウマダライルカはマジカルフレンドリーと呼ばれ、
まるで笑ったような顔をしたイルカで恐ろしく人間と遊んでくれます。
この話は川端裕人「イルカと僕らの微妙な関係」で書かれています。
(その時の自分も話の中に本名ででてきます。)
もう絶版なのですがこの夏にどうやら文庫本がでるらしいと
最近本人から聞きました。
僕はこの夢のような洋上の上でヒロ(川端さん)から言われた言葉が
その後の人生を少しかえることになりました。
「もし人類が肉を食べなければアフリカの子供は救えるんだよ。
肉を1つくるのに穀物5必要。
その5をアフリカに与えれば救えるんだ、計算上は。」
根拠としても少しあやしい数字だし、つっこみどころも多々あるが、
非日常な場所だったせいもあってとにかくその時の自分にはこれだ!
とまさに開眼したような状態におちいったことを覚えています。
人間はなんて自分勝手な生き物なんだろうと。そのエゴから
脱するためにやれることとして、環境に興味を持ち始めた、
というのが今の自分のスタンスの出発点だともいえます。

それからもしばらく小笠原、御蔵島などドルフィンスイムを続けていました。
そのイルカ、環境保護、などの文脈の中ででてくる1人として
リックオバリーがいました。THE COVEの主人公です。
僕は15年前に彼の著書を読んでいました。
もちろん日本人がイルカを食べることも知っていたし、
これはさっき紹介した本にも写真入りでしっかりレポートされていました。

THE COVEはニコ生の試写会で見ました。
15年たったいまこういうカタチで
イルカに再会するとは思ってもいませんでした。

映画としてもドキュメントとしても僕はひどいと思いました。
一般的な反日映画批評、映画としてのドキュメンタリー批評、
公開中止にまつわるデモクラシー批評、
映画の制作にまつわるファンドレイジング疑惑、
ETC....おそらく威勢のいい批評があちこちにたくさんあるので
ここにはかきません。

ただひとつ、彼の心は氷のように固まっている。
15年前とまったく同じことをいっているのです。
これはシーシェパードの連中にもいえることなのですが、
人間の世界を否定したいのに、それでも人間として生きなければならない
どうしようもなく救済されない感情といったものを感じてしまいます。
イルカは媒介であって、ただ彼らのその巨大な喪失感は
いったいどこからくるのかがとても気になってしまいました。
喪失感………

ミツバチの羽音と地球の回転、四谷市民ホールでみました。

完成披露上映会、東京の初日だったようです。
会場は年配の方と若い方にどちらかいうと分かれたような印象をうけました。
この手の映画を見るのは初めてに近いのですが、
原発反対という意見の人たちが集まったような集会のような雰囲気で
映画を見るという感じとは違っていたように思えました。

どうしても気になってしまったのがスウェーデンの部分。
あれは本当に必要だったのかな?と感じました。
うーん、少し短絡的すぎではないかと。
六カ所(村ラプソティ)では希望の提示があまりなかったので、
今回は未来につながるように、というのであれば最初からスウェーデンの映画に
すればよかったのではと素直に思いました。
というのは予定調和的な成功事例の紹介に終始している印象を受けたのです。
祝島の住民がスウェーデンの事例を実践して発展させればいい
というメッセージではないはずでしょう。
だとしたらこのコントラストは当事者以外の我々に、
祝島=まずい例、スウェーデン=よい例、
と提示されているような誤解を与えてしまうおそれもある。
少なくともそういう印象をうけてしまいました。

個人的には中国電力を一方的な悪として描くのではなく、
彼らの中にもある会社人としての葛藤や苦しみを
えぐり出してほしかったです。そういうところまで描いてこそ問題の
根幹が見えてくるのでは?と思ったのです。
原発反対?自分はもちろん反対です。が故に我々はより賢くなるべきです。
中国電力は悪か?悪は違うところにあるような気がします。
悪は世の中の見えないところにいてこそ悪たらしめているのが世の常です。

原発なんていらない。自然破壊は許せない。
それ以上の何かを(スウェーデンの例ではなく)
見たかった気がしました。おそらく鎌仲さんはやさしすぎるんでしょう。
もちろん、それが素晴らしいことであるのは間違いありません。
ドキュメンタリーであろうとひとつの映画作品である以上、事実を通して
製作側の意図するようにつくられるものが映画なのですから、
当然伝えたい意志が表現になってあらわれるものです。
そうだとしたらやさしすぎる。。。

ちょっと辛口の意見ですみません。

でもね、僕はNO NUKES!

衰退するカルチャー


第4回サステナブルデザイン国際会議のプレイベント、
Design Accord Tokyo Town Hall」が
東京ミッドタウン・デザインハブで行われました。
モデレータに兼松さん(本イベント主催元:greenz.jp)、
津田和俊さん、NOSIGNERさん、田中浩也さん(慶應義塾大学准教授)、
林千晶さん(ロフトワーク代表取締役)という顔ぶれでした。
テーマは「Design×Sustainability×OpenSource= ? ? ?」

NOSIGNERさんの立ち上げたOPEN SOURCE PRODUCT、
田中さんのOpen (Re)source Furniture、
そしてCCの日本代表も務める林さんの著作権オープンソース周辺、
かなりエッジがきいていてとても面白かったです。
このイベントの前日にいったgdtもすごくよかったし、
YOSHこと兼松さん、のっています!


ところでこの記事見出しの「衰退するカルチャー」、
なんだか話題の新書のタイトルのようですが
林さんがトークのなかで発したものです。
これは今回一番響いた言葉でした。
サスティナブルな指向の裏側に、衰退していく文化があるということ。
もう大きな発展がないような社会には、今後はゆっくりとした衰退しかない。
であれば空虚な右肩上がり指向ではなくて、長く生き続くものの
価値を大切にしたい、という意味に受け取りました。
逆にこれから大発展を迎えるインドや中国にはこういう思想はまだ少なく、
先進国ではこれまた逆にどこも持続可能性を目指しているという視点。
すごく腑に落ちました。
衰退がネガティブということではなく、
自然は、そのままの自然として正面から見つめて
行動するということが大事だと思っていたので、
この言葉はしばらく大切にしていきたいと思いました。

別の共通言語

昨晩、何気につけたテレビでガイアの夜明けをやっていたので
何となくみていました。ハイブリット車の特集でしたが、
少し驚いたことがありました。それはハイブリッド車の話ではなく、
現代の若者(20代前半)のクルマにたいする興味です。
クルマが若者に売れないと数年前から自動車メーカーが悲鳴をあげていますが、
そもそも若者はクルマが嫌いとか、欲しいクルマとかがない、のではなくて
クルマにいまだ一度も出会っていないのではと思いました。
そんななかで購入などするわけもありません。
番組ではHondaの担当者が大学生に意見を聞くシーンがあったのですが、
「機能が新しくなったとかどうこういうわれても、
そもそもそれが自分に対して何がいいのかわからない」
というところなどは、もう自分のライフスタイルのなかにクルマというものが
存在していないという意味だと思います。

経済がまだ表向き右肩上がりと思いこまされていた時代、
かつて上の世代がやっていたものに対して、自分たちのものがない、という
感覚がそもそも若者消費の中心だったと思います。
僕たちの欲しいクルマがない、僕たちの欲しい服がない、僕たちの欲しい…
違うのです。消費の対象のなかに上世代がつくっていたカテゴリーがないのです。
若者は現実的になり、不況がさらに加速させていきます。


自分はメーカーの人間ではないし、もっと若者にクルマに乗って欲しいとは
まったく思わないけれども、この分かちがたい大きな溝を埋めていくモノは
何だろうとついつい考えてしまいました。
それは、消費というフレームではない、
何か別の共通言語のモノのような気がします。
うーん、いったい何だろう?モヤモヤしています。

柳井正著「成功は一日で捨て去れ」

この不況の中、一人勝ちと言われ続けているユニクロの経営者の本です。
何故この本を読んだかというと、いくつか理由があって、


ファストファッションが嫌いなんだけど
なんで嫌いなのか自分でもよくわからなかった
●経営が斬新というのはよく聞くがいったいどんなものなんだろう。
●日本発のグローバル企業と呼ばれているが本当かな?
川久保玲をしてあの会社が悪い、といわしめた。
(注:直接ユニクロとはいってはいない)
●デフレとの関係を知りたい。


だいたいこんなところでした。
読んでみての感想は、「徹底的」。
本をだす以上、社内外の宣伝効果や啓蒙啓発的要素は必ずあるはずだけど
文面からひしひしと伝わってくる現状に対する危機感と攻め攻めの
連続でどこから読んでも徹底的です。
グローバル企業になるという強い目標があってそれに向かって邁進している。
曇りなく冷徹で徹底的、改善の連続、努力の連続…
おそろしく当たり前のことを粛々と積み重ねています。
佐藤可士和がNYのSOHOのブランディングデザインを担当したときの
コンセプトに「超・合理的」というのがありましたが、
非常に正確なコンセプトだということがこの本を読んでよく分かりました。
ファッショナブルにしようと努力する一方で、
商品をファッション以上のものとして、徹底的に機能させることで
ファッションを超えていこうとしています。
ただ、すごいな!と思う一方で予想を裏切るような発見は
あまりこの本にはありませんでした。
でもそれこそがユニクロの強さなのだと思います。
そう考えるととても日本的な企業だとも思いました。


で、読んだ後の答えとしては
ユニクロファストファッションには違いないが
グローバルファストファッションにするためには恐ろしいような
毎日の努力が必要だということ。
●経営が斬新なのではなく、むしろまっとう過ぎるが故に逆にそう見える。
●日本発の本格的なグローバル企業になるだろう。
●これはもはや土俵が違いすぎる。
そういわれてもそれはしょうがないかもしれない。
●デフレとはあまり関係がないかもしれない。


で、結局ユニクロ買いますか?という話ですが、
自分が好きな服を買いたいので、買う場合もあるかもしれないけど
買わない場合もある、としかいえません。
合理性は確かに強みだけど、
洋服は色や素材や機能や合理性だけでは語れないので。
ただ、それで充分という人のほうが世の中の大半だから
それはもうしょうがないでしょう。


change or die.
これは2008年の抱負ですが、まるでロックバンドのCDタイトルのようです。
柳井さんは、保守的極まりない繊維業界がいやでいやでしょうがなかったんだと
思います。そこがモチベーションの源泉なのかと思いました。
ファーストリテイリングはまだまだ延びるでしょう。
創業60年といってもこの経営体制になったのは1990年のことですから
20年しかたっていません。戦後立ち上がったSONYやHONDA、松下の
ような日本の優良大企業のストーリーとなんら変わるところは
ないのかもしれません。
当時は、電球やラジオやバイクとか必要なのに世の中になかった。
今は、安くて機能的でどこでも買える衣料が世の中になかった。
それだけのことかもしれません。

2010年がはじまりました。

昨年からここ1年で怒濤のような社会変化が起こり、
全ての価値観に疑問がむけられるとともに
社会全体、どこをどう切っても
シビアすぎる現実に押しつぶされてしまいそうです。
マクロ的で見ていけばそうであることは
今年も間違いないのですが、ミクロ的にみれば
そうでもない部分も多々あるはずです。
そしてそれぞれの業界の硬直化を融和して、情報を流通させることに
よって構造不況に風穴をあけられればいいと思いますし、
それはきっと不可能ではありません。
そしてその時に大事なのが会社や業界の習慣ではなく、
個人のスキルと社会性の自覚だと思います。
ニッチなエリアを探し出して一時避難するような文脈ではなく、
これを機会に本質的な価値を
おのおのが見つめ直すチャンスでもあり、
社会がよりよくなる大きなチャンスでもあると思います。


デザインとはde-sign、つまり方向を示すというラテン語からきています。
そしてデザインはこういう時代だからこそ、有効だと信じています。
今年も初志貫徹、デザインの力を、社会の力、にしていきたいと思います。